猛追の口火を切った尾又寛汰。敗戦の中で見せた確かな存在感
後半の猛追も及ばず、NECグリーンロケッツ東葛は33対43でコベルコ神戸スティーラーズに敗れた。
試合後、レメキ ロマノ ラヴァが「強い相手に最初に19点を取られたら勝つのは難しい」と振り返ったとおり、試合開始からわずか10分間で3トライを取られ、序盤に大きく点差を広げられたことが最後まで響く形となった。
NECグリーンロケッツ東葛の入りの悪さと、開始10分間で19点を奪ったコベルコ神戸スティーラーズの勢いを考えれば、ワンサイドゲームになってもおかしくない展開だった。
だが、その悪い流れを断ち切り、反撃の狼煙を上げたのが、尾又寛汰が前半30分に決めたトライである。
今季移籍加入の尾又にとって、この試合はNECグリーンロケッツ東葛でのデビュー戦となった。新天地での初戦へ臨む心境を、彼はこう口にした。
「昔から気負いすぎるとあまり良いことがないので、これまでやってきたことを信じて、チームのみんなを信じて、しっかり自分の仕事をすることを意識して試合に臨みました」。
チームのみんなを信じる──。まさにその“信頼”こそが、前半30分のトライを生むキーワードとなる。
NECグリーンロケッツ東葛のアタックでハンドリングのミスが生じるも、味方をサポートしたレメキがルーズボールを拾いターンオーバーを回避。さらにコベルコ神戸スティーラーズのプレッシャーを跳ね除けてレメキは突破を図った。
「マノさん(レメキ)なら、抜いてきてくれる」。
瞬時にそう感じた尾又は、レメキが突破することを信じて左サイドのスペースへ駆け上がっていった。
予測どおり、数人のディフェンスを引きつけたレメキから尾又はパスを受け、二人のコンビネーションでラインブレイクに成功すると、尾又は移籍後初トライを決めた。
かつて三重ホンダヒートでチームメートだった尾又とレメキは、今季から再び同じユニフォームを着て戦うことになった。
レメキが「ずっと兄弟のように仲が良くて、ひさしぶりにプレーができてめっちゃうれしかった」と言えば、尾又もまた「三重ホンダヒートの時からお世話になっていて、こうしてプレーできるのはうれしかったし、トライを取ったところも、あの人だったらあれぐらいやるというのはよくわかっていました」と、ともにプレーができる喜びと先輩への信頼を述べた。
トライの場面以外にも、80分を通じて尾又は鋭いランを随所に見せた。
尾又にとってはプレシーズンを含めて今季初の80分間のプレーだったため、「正直、ちょっと試合勘が薄れている部分があったのは事実で、後半は足がちょっと動かなかった」と苦笑いを浮かべていたものの、フルタイムをこなしたことでコンディションは向上し、試合勘はより研ぎ澄まされるはず。おそらく彼自身がその手ごたえを感じているのだろう、今後の戦いへ向けて「これから良いランを何発も見せます!」と力強い言葉を残した。
チームとしては試合の入りの悪さに課題が残った。そしてその点差が響き、コベルコ神戸スティーラーズに敗れた。
しかし前半30分のトライで息を吹き返し、後半に見せた猛追は非常に見ごたえがあった。その口火を切った尾又寛汰。今季からNECグリーンロケッツ東葛に加わった男が、チームに新たな風を巻き起こす。
(取材・文:鈴木潤)
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リーダーたちが見たピッチの景色
「今はメッチャいいラグビーをやっている手応えがある!」
~猛反撃でクルーを熱くしたスティーラーズ戦でテイラーHCとレメキ主将が感じた確かな手応えとは~
「最初のプレーでイエローカードをもらって10分間に19点奪われた――スティーラーズのような実力のあるチームにそこから反撃して勝利に持っていくのは非常に難しかった……」
後半に猛反撃しながら33対43と敗れたコベルコ神戸スティーラーズ戦を振り返って、ロバート・テイラーHC(ヘッドコーチ)は、そう切り出した。
試合開始のキックオフを追ったCTBマリティノ・ネマニが、まだ空中にいる選手にタックルを見舞って、わずか31秒でシンビンとなってしまう厳しい立ち上がり。それが響いたというのだ。
しかし、グリーンロケッツ東葛は勝負を諦めなかった。
16分に、ゴール前のラインアウトから、モールで押し込むと見せてSHニック・フィップスがタッチライン際のHO新井望友にパス。新井がそのままインゴールに飛び込んで反撃開始。
そこからは両チームがトライを獲り合う展開となり、最終的には10点差へと追い上げた。
昨季の2度の対戦が、第5節17対48、第12節28対57と、いずれも30点近い差をつけられたことを考えると、懸命に追い上げた展開に、今季の手応えが感じられる。
テイラーHCも、こう振り返った。
「今日はスクラムが非常に良かったし、ラインアウトも良かった。勝てなかったし、7点差以内負けのボーナスポイントも獲得できなかったので満足しているとは言えませんが、それでも33点奪ったことには手応えを感じました。相対的に反則数も少なかったし(グリーンロケッツ東葛7、スティーラーズ14=フリーキックを含む)、成長している証がいくつも見られた。選手たちのハードワークの賜物(たまもの)です」
ハードワークの象徴的な存在が、キャプテンのWTBレメキ ロマノ ラヴァだ。
前半30分には、鋭いステップで自陣から抜け出してチャンスメイク。最後は味方のパスミスを利用するような形でスティーラーズ防御とすれ違い、WTB尾又寛汰のトライに結びつけた。
後半も、66分に途中出場のWTB後藤輝也と、元7人制ラグビー日本代表同士でスピード感溢れるカウンターアタックを敢行。自らトライに仕上げて、終盤の押せ押せムードを盛り上げた。
レメキが言う。
「試合の入りがメッチャ悪くて、最初の10分は、みんなが下を向いていた。このままでは60点くらいとられる大差のゲームになってしまうから、積極的に仕掛けに行った。こういうときに活躍しないと、キャプテンとしての、リーダーとしての仕事ができていないことになるからね。だから、ボールを持ったらとにかく走ろうと思ったんだ」
そして、チームメイトに、こうゲキを飛ばし続けた。
「最後までオレたちは絶対に走り切れる!」
ゲキに呼応して、仲間も走り続けた。
レメキが、こう讃える。
「みんなのファイトはすごかった。昨季は60分までしかファイトできなかったけど、今季は最後までファイトし続けられる。(プレーが続いて両チームの陣形が崩れた)アンストラクチャーな状況からのアタックが良くなったのも、みんなが身体を絞って体脂肪を減らしたから。だからみんな走れる。今はメッチャいいラグビーをやっている手応えがあるよ」
そして、ラストプレー。
自陣から途中出場のFL大和田立が抜け出した。
トライを奪えば、負けは覆らないものの、ボーナスポイントを獲得できる。
クルーの手拍子が大きくなり、スタンドは総立ちに!
しかし、チャンスを広げようと放ったパスがカットされ、チャンスが潰えて試合が終了した。
虎視眈々とラストチャンスを狙っていたレメキが振り返る。
「大和田の隣に(途中出場のHO)アッシュ・ディクソンがサポートしていて、その内側には僕がいた。だから、パスがつながっていれば絶対にトライに持って行けた。そうすればボーナスポイントも取れたから、本当に残念だった」
レメキはそう悔んだが、次節のクボタスピアーズ船橋・東京ベイ戦(14日 江戸川区陸上競技場 14時30分キックオフ)に向けて、課題を指摘することも忘れなかった。
「ただ、確かにトライを獲る力はついてきたけど、強いチームのアタックを抑えるディフェンスがまだ課題だね。スティーラーズはボールを積極的に動かすチームだけど、次節のスピアーズは大きなFWが力でドミネート(支配)してくる。また違う戦い方になる。だから、それは映像を見て準備をしたい」
テイラーHCも、次節に向けてこう話す。
「スティーラーズ戦に向けてディフェンスに重点を置いてハードな練習をしてきました。その割には簡単にトライを獲られた場面もありましたが、大差を逆転するためには大きなリスクを背負ってアタックしなければならない。その過程でどうしてもミスが起こるし、それを危険なランナーが揃ったスティーラーズに攻められた。それが残念でしたが、でも選手の健闘は讃えられるべきでしょう。1人ひとりは今、ものすごく成長しているのですから。
次節のスピアーズ戦に向けても、やはりディフェンスが重要なポイントになるでしょう。スピアーズは、大きなFWがサイズを活かしてアタックしてきますが、今日の43失点をせめてあと10点少なくする――それが、次節に向けたテーマになります。そのためには、試合を経るごとに進化すること――それが私たちにできることだし、またそうしなければならないと考えています」
そして、最後にクルーに向けて、こんなメッセージを発信した。
「今日は、最初の10分間はスタンドのクルーも私たちコーチングスタッフもみんな静かでした。でも、後半の最後の20分間はみんな熱くなった(笑)。それだけ、試合展開に“行ける!”という手応えを感じたのでしょう。
今季はまだあと13試合残っています。今日のように、選手たちが進化し続けた結果をピッチで出してくれれば、やがて私たちにもチャンスが巡ってくる。今季はまれに見る混戦になっていますが、そう信じています!」
スティーラーズを追い詰めたアタックで、グリーンロケッツ東葛は昨季ベスト4に残ったスピアーズに強烈な一撃をお見舞いすることができるか。
次節は、今季の進化を証明すべき試合になる!
(取材・文:永田洋光)
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