キーワードは「スペース」――それが開幕戦のトライを生んだ新生グリーンロケッツの核だ!
キックオフからわずか23秒で、NECグリーンロケッツ東葛が、柏の葉公園総合競技場に詰めかけたクルーを沸かせた。
FBトム・マーシャルが、最初のボールタッチでカウンターアタックを仕掛け、SOレメキ・ロマノ・ラヴァにパス。レメキが左に流れるようにディフェンスの隙間を探して走り、タックルを受けながら、左に待つWTB宮島裕之にオフロードパスを通す。
宮島もタッチラインを踏まないように踏ん張ってラックに持ち込み、SH田中史朗がボールをさばく。PR瀧澤直キャプテンの手を経てパスを受けたLOジェイク・ボールがラックに持ち込み、そのなかで横浜キヤノンイーグルスが反則を犯す。
初めてのアタックが、いきなりチャンスを作り出したのだ。
「今季は、チームでカウンターアタックを向上させようとしている。だから、試合前から仕掛けることを意識していた」
そう振り返ったのはマーシャルだ。この試合ではほとんどキックを蹴らず、ボールを持てばスピードに乗った走りでイーグルス防御を押し下げ、スタンドにワクワク感をみなぎらせた。
「心がけているのは、スペースに走り込むこと。そうすれば、チームに勢いが生まれる」
そんな信念が生んだカウンターアタックだった。
3分過ぎには、さらに鮮やかなカウンターアタックが、クルーのボルテージを上げる。
一度は反則でボールを失い、イーグルスに自陣深くにボールを蹴り込まれた場面。今度は反対側の右サイドだ。誰もいないスペースに転がるボールに、まずWTB後藤輝也が追いつき、身を挺して確保する。そこに戻ってきたマーシャルが後藤からバスを受けて、さらに内側へ、CTBギハマット・シバサキ→NO8アセリ・マシヴォウ→FLフェトゥカモカモ・ダグラスとパスをつなぐ。そして、ダグラスがタックルを弾き飛ばして一気にハーフウェイラインを越えた。
誰ひとりサボることなく背後に蹴り込まれたボールに戻り、そこから息つく間もなく前進を図る。ロバート・テイラーHC(ヘッドコーチ)が就任以来繰り返し求めたハードワーク。それが、開幕戦の大舞台でピッチに現れたのだ。
けれども、イーグルスの懐深い防御に守られ、トライには結びつかなかった。膨らみかけた期待は水をかけられたようにしぼみ、スコアボードには0対6の数字が刻み込まれた。
しかし、またもやマーシャルが、しぼみかけた期待にふたたび命を吹き込んだ。
19分。
イーグルスが蹴り上げたハイパントに後方から走り込み、ボールの落下点めがけてスピードに乗ったまま大ジャンプ! 見事に捕球してチャンスを生み出し、反撃ののろしを上げる。
グリーンロケッツは、ここから攻め続けた。
ペナルティを得ればラインアウトを選択してモールを組み、グリーンの塊がトライを狙う。しかし、わずかに届かず仕切り直しに。10分以上にわたって繰り広げられた力勝負は、塊がゴールラインを越えることはなく、イーグルスのタッチキックで地域を戻され、チャンスは潰えたかに見えた。
ところが――。
続くラインアウトからCTBギハマット・シバサキが、イーグルス防御を切り裂いてゴールライン手前まで快走。ふたたび猛攻が始まった。
32分。
アドバンテージを得てボールを動かし、マーシャルの手に渡る。
左側の大外で、宮島がボールを呼び込む。
マーシャルがふわりと蹴った柔らかいキックパスが、宮島の懐に吸い込まれたときにはもう行く手を阻む防御はいない。右手に拳を握ってインゴールに走り込んだ宮島がボールを丁寧にグラウンディングして、グリーンロケッツが記念すべきリーグワン初トライを記録。
クルーのボルテージを最高潮に押し上げた。
12月に行われた日野レッドドルフィンズとのプレシーズンマッチでハットトリックを達成するなど、開幕前から好調を維持している宮島が言う。
「WTBにはトライを獲ってスコアするという役割がある。だから、今季は、どんな形でもいいからトライを獲ろうと、スピードを強化してきました」
そして、こう続けた。
「今季は、スペースに走り込むことをずっと意識しています。チームが新しくなって、ボールを前に運ぶインパクトのあるプレーヤーが増えた。だから、彼らをサポートして、防御が集中したところに走り込んでパスをもらえばトライが獲れる。身体を張ってスペースを作ってくれた仲間がいるからこそ、僕らバックスは、トライを獲りきることが大切なんです」
宮島とマーシャルの口から、図らずも「スペースに走り込む」という同じフレーズが飛び出した。それこそが、新生グリーンロケッツが目指すもの。ボールを動かして防御を揺さぶり、そこで生じたわずかな隙間に走り込む意識が、チームに根づき始めた証なのである。
それが、グリーンロケッツにとってのリーグワン初トライの真相だった。
しかし、その後はイーグルスに巧みにゲームをコントロールされて、グリーンロケッツはなかなか見せ場を作れなかった。
57分には、ラインアウトを早く仕掛けてレメキが一気にゴールラインまで駆け抜けたが、TMOで抜ける直前に妨害行為があったと判定されて取り消しに。
70分過ぎからはモールを中心に、FWが塊となったトライを目指したが、それも届かず、スコアボードには5対33という無情の数字が刻まれる。
けれども、最後まで手拍子を送るクルーに後押しされたように、78分、ついにレメキが防御を突破。チームに2つめのトライを記録した。
これも起点はマーシャルのカウンターアタック。そこから途中出場のCTB児玉健太郎が大きく抜け出して、レメキが走るスペースを作り出したのだ。
テイラーHCは、「腕相撲みたいに、お互いにプレッシャーを掛け合い、激しいコンテスト(ボール争奪)が繰り広げられたゲームだった」と試合を総括した上で、こう話す。
「もちろん、勝ちたかった。でも、自分たちのラグビーを信じることができる内容でもありました。だから、これからも方向を間違えずに前に進むことが、勝利のために重要だと思う。内容的には、クルーのみなさんにもラグビーファンにも、楽しんでいただけたから、そういう意味では少しハッピーでもありますが、でも本当に勝ちたかった……」
そして、これからに向けて前を向く。
「グリーンロケッツにとっては、毎試合がロケットの打ち上げです。打ち上げに成功して高く上昇するときもあれば、今日のようにあまり高く上がらないこともあるかもしれない。でも、上手くいかなければそこから学び、次の打ち上げを成功させるための糧とすることが何よりも大切なのです。グリーンロケッツは、まだ生まれ変わったばかりの新しいチーム。これからも、みんながいっしょに行動し、お互いのことをより深く理解し、学ばなければならない。そうした関係性が深まれば、チームのコンビネーションが良くなって、プレーの正確性も増す。正確性こそが、グリーンロケッツが、この厳しいリーグのなかで戦っていく上でもっとも大切なことなのです」
第2節の埼玉ワイルドナイツ戦が、ワイルドナイツに新型コロナウィルス感染者が出て中止となったため、グリーンロケッツの次の試合は第3節シャイニングアークス東京ベイ浦安戦(22日 秩父宮ラグビー場 14時30分キックオフ)となる。
テイラーHCは、この時間をフル活用して修正を施し、次の「打ち上げ」に臨む考えだ。
スターティングメンバーなどはこちらよりご覧ください。
リーダーズコメント
ロバート・テイラーヘッドコーチ
トップリーグの時代に勝てずに苦しんでいたグリーンロケッツが、今日は本当に激しく相手と戦った。それが、これからのシーズンに向けてとても重要なことでした。
過去に多くのトライを奪われて大量失点したチームが、敗れたとはいえトライ数は2対3。だから、ディフェンスには手応えを感じています。新しく生まれ変わった部分です。ただ、反則が多くて、相手に得点を与えてしまった。グリーンロケッツは、大きなサイズを誇るチームではないので、まず何よりもプレーの正確さが求められる。それが、ペナルティの数を減らすことにつながると考えています。
後半はスクラムもやられたので、この修正にも取り組まなければなりません。そのためにやることは山積していますが、これまでみんなが続けてきた素晴らしい努力を思えば、きっと改善されるでしょう。
レメキ・ロマノ・ラヴァは、いつもボールを持ちたがる選手なので、数多くボールを持てるように10番に入れました。今のメンバーの強みや弱みを考えた結果、そうするのがチームにとってベターだと判断したのです。マーシャルも、今日はとても良かった。いずれも、未来に向けての良い兆候です。ただ、チームは、まだ生まれ変わったばかり。これからも、みんながいっしょに行動し、お互いのことを理解し合い、学ばなければならない。そうした関係性が深まれば、チームのコンビネーションが良くなって、プレーの正確性も増すと思います。
瀧澤直キャプテン
今日は、やろうとしたことがちゃんとやれて、そのなかで反省すべき点がある、という試合でした。僕も含めていくつか反省点はあるし、それを試合中に修正し切れなかった部分もありますが、それが明確な分、次の試合に向けて前向きに修正していける。しかも、いいアタックがあったし、ワクワクするようなプレーも出た。これも、次の試合につなげられる部分だと思います。
でも、勝つ方が良いに決まっているから、一番最初に来るのは、負けて悔しいという気持ちです。キャプテンとして、チームを勝利に導けなかったのが悔しい。
モールでトライを獲れなかったことも、反省点の1つです。もちろん、相手にプレッシャーをかけることはできたし、反則をとることもできましたが、僕たちとしては、モールの形でゴールラインを越えたかった。それが正直な気持ちです。
一方で、今日はディフェンスに手応えを感じました。
もちろん3トライ獲られたのですが、相手が継続しているときに、このままディフォンスし続けていればトライは獲られないと感じた瞬間があったんです。そういうところが、チームが進化しているところだと考えています。終了直前に攻められたときも、トライを与えずに守り切った。勝敗に影響しない場面でしたが、僕らにとっては次の試合につながる瞬間でした。
(取材・文:永田洋光)