ゲームを支配できた20分と崩れた残りの60分――グリーンロケッツ、勝負の分かれ目への対処に課題を残す!
試合前の選手入場。
いつもならホストのNECグリーンロケッツ東葛が、瀧澤直キャプテンを先頭に隊列を組んで入場する。しかし、この日は違った。
トレードマークの白い、美幌高校やNEC、そして家族の名前が入ったヘッドキャップをかぶったFL大和田立が、1人でピッチへと歩み出てきた。
大和田はこのコベルコ神戸スティーラーズ戦で、グリーンロケッツの試合出場がちょうど50となる。節目の50キャップを祝福するメンバーたちからの、ささやかな“サプライズ”だった。
「僕は特別意識していなかったのですが、スタンド下で整列したとき、タッキー(瀧澤)さんが“50キャップだから”と送り出してくれた。粋な計らいでした(笑)。“え、僕でいいんですか?”という感じでしたけど、今日がケガからの復帰戦。スタッフがそんな僕を先発に選んでくれたのが嬉しかったし、信頼してくれたからこその先発だと思って、ピッチに入るときには、やってやるぞ、という気持ちを強く持ちました。この間、治療をしてくれたトレーナーのみなさんに恩返ししたい気持ちもありました」
大和田の「気持ち」は、前半からプレーの随所に現れた。
0対3とリードされた5分過ぎには、ラインアウトで少し乱れたボールを、LOジェイク・ボール(以下ジェイク)が前に持って出て、アタックの陣形を整える。スティーラーズのオフサイドでアドバンテージを得ると、右へ展開。大和田は、SOレメキ・ロマノ・ラヴァのパスを受けて、相手防御に触れられないクリーンブレイクを果たした。レメキへのリターンパスが乱れてビッグチャンスには結びつかなかったが、試合前から意識していた「チームにエナジーを与えるプレー」の一端を見せたのだ。
チームとしても、グリーンロケッツは、立ち上がりから気持ちのこもったプレーを続けていた。
日本列島が強力な寒気団に覆われ、柏の葉公園総合競技場にも冷たい強風が吹きつけるなか、それでも声援を送り続けるクルーに熱い思いを届ける――そんな決意が見てとれた。
もう1人、熱い気持ちでこの試合に臨んだ男がいる。
昨季、トップリーグのラストシーズンでルーキーながら7試合連続でフル出場を果たし、その後は負傷で戦列を離れていたLO山極大貴だ。
「今季は、開幕戦も、前節も、もどかしい思いで試合を見続けていました。だから今日は、本当にワクワクした気持ちで試合に入りました」
198センチの長身に加えて、今季は体重も3キロ増やして現在は116キロ。文字通りの「大器」だ。師と仰ぐウェールズ代表50キャップ、身長199センチのジェイクと並べば、ラインアウトを支配するためのツインタワーとなる。
この試合で復帰した2人を中心に、グリーンロケッツFWは、まさにエンジンとなってチームを前に進めた。
10分。
スティーラーズのゴール前ラインアウトを山極がきれいにキャッチ。
モールを組むと、一気にプッシュをかける。
中心で山極が柱のように男たちの塊を引っ張り、大和田がしっかりとモールを前に進める。
塊がゴールラインを越え、HOアッシュ・ディクソンがボールをグラウンディングしたときには、後方に回って押し込んでいた山極が、勢い余ってディクソンの身体の上を飛び越えた。
今季初めて、グリーンロケッツがモールを押し込んでのトライを挙げたのだ。
レメキのコンバージョンで7対3と逆転してからも、勢いは続く。
16分には、やはりゴール前のラインアウトから、SH役に入った大和田が、回り込んできたディクソンにパス。ディクソンは、直進しながら相手を引きつけて横にパス。そこに、CTBティム・ベネットが斜めに切れ込む。
攻める方向を変えたベネットはスティーラーズ防御を突破。
ゴールラインまであと数10センチのところで倒されたが、チャンスが続く。
しかし、左へ展開したところでペナルティを取られて、トライチャンスを生かせない。
それでも22分にレメキがPGを決めて10対3とリードを広げたが、結果的には、この逸機がその後の展開に響いた。
山極が言う。
「FWの一員として、モールでトライを獲れたことは素直に嬉しかったです。トライだけではなく、スクラムでもペナルティをとれたし、前半のあの時間帯はいい流れでした。ただ、その時間帯にトライが1つで終わってしまった。プレーが切れたときに見ると、相手が疲れているのがよくわかったし、僕たちはイケイケでしたから、あそこでさらにトライを獲れなかったのが大きかったですね」
大和田も、前半20分過ぎまで「手応えがすごくあった」と振り返って、こう話す。
「あの時間帯は、ペナルティも少なくて我慢ができていた。でも、結果的にはペナルティが多くてこういう結果(17対48)になりました……」
ペナルティが増え始めたのは、スティーラーズに10対10と追いつかれた辺りから。
31分には、自陣でピンチを耐え、相手のノックオンでマイボールのスクラムを得ながら、そのスクラムでフリーキックを与えてしまい、そこから早く仕掛けられて、トライを奪われた。
それでも風下の不利な状況を考えれば、5点差は十分に勝機を望める圏内だったが、前半終了間際には、ホーンが鳴った後も、あえてアタックを敢行。そこでペナルティを続けてトライを許し、5点差を追うはずの後半が、12点差を追う展開になってしまった。
しかも、後半開始直後には、風上に立つ優位性を生かそうと長いキックを使う戦い方に変えたが、そこでキックのオフサイドをとられてしまう。
これでいきなりピンチを迎える展開となって44分にトライを奪われ、完全にゲームの流れを手放すことになった。
「勝つことから遠ざかっているので、どうやってゲームを勝利という結果に導くのか、選手たちは、その方法をこれから学ばなければならない」
そう話すのは、ロバート・テイラーHC(ヘッドコーチ)だ。
「ゲームには、必ず勝負を分ける大事な瞬間が訪れます。強いチームは、試合のなかで訪れた決定的な瞬間をいち早く察知して、正確に判断して対処します。今、私たちが学ばなければならないのは、そういう大切な瞬間を察知して、正しく対処することです。今日は、大切な場面で正確なプレーをできず、決定的なミスを犯してしまった。もちろん、そういう瞬間に対処できるよう、練習を重ねてはいますが、これをチームに徹底するには、もう少し時間がかかる。それが、クルーにとっても、チームにとっても、苦痛に満ちた時間が続く原因なのです」
そして、こう続けた。
「コーチとして今すごく残念に思っているのは、勝てないことではありません。もっと多くの場面でいいプレーができるはずなのに、それができていないこと――それが、コーチとして悔しく、また残念に思うところです。今日も、ディフェンスではいい時間帯がけっこうありました。むしろ、割合で言えば、いい時間帯の方が多かったかもしれない。でも、決定的だったのは、悪い時間帯に相手にトライを与えてしまったことでした。だからこそ、次節以降に向けて、正確性を追求することになります。良いチームは、どういう状況で何をすべきかを全員が理解しているのでゲームをコントロールできる。グリーンロケッツは、今はまだちょっとチャンスやピンチに選手たちが興奮し過ぎて、正確にプレーができず、ペナルティやミスを犯すことがある。時間は少しかかりますが、それを修正しなければなりません」
これでグリーンロケッツは、カンファレンスA内での総当たり戦1巡目を終えた。
2試合の不戦勝で勝ち点10を得たが、ピッチで戦った3試合は、いずれも敗れて勝ち点を上積みできなかった。
これから1週間のバイウィーク(休養週)を挟んで、第6節のホストゲームからは、カンファレンスBに所属する6チームとの総当たり戦に挑むことになる。
最初に迎え撃つのは、ディビジョン1の12チーム中唯一全勝で首位に立つ東京サントリーサンゴリアス(20日 14時30分キックオフ)。どのチームにもまして強敵だが、瀧澤直キャプテンは、こう言って前を向く。
「もちろん、勝ちたいですし、結果にこだわりたい。ただ、それ以上に、自分たちがどこまで準備してきたことを、自信を持って出せるか。いい時間帯をどこまで長く続けられるか。そういった部分にもこだわりたい。それが、必ず良い結果につながると、信じていますから」
スティーラーズ戦では約20分、ゲームを支配して優位に立つことができた。
グリーンロケッツは、その20分を80分へと拡大して、スコアボードに勝利の2文字を刻めるのか。
20日のサンゴリアス戦は、チームの底力が試される、“第2ラウンド”開始のゴングとなる。
スターティングメンバーなどはこちらよりご覧ください。
リーダーズコメント
ロバート・テイラーHC
前半のいい流れ、勢いを持続できなかったのは、細かいミスやペナルティが多かったからです。いい流れができても、良くないプレーで流れを相手に渡し、それが繰り返されて、結局ゲームがこういうふうになってしまいました。
チームができてまだ3試合目なので、その辺りへの対処がまだ整備されていないのです。
ただ、今日は受け入れがたいようなミスも出て、それが勝利を遠ざけた。
そうした決定的なミスは、これからの準備ですぐに修正しなければなりません。
次節の東京サントリーサンゴリアス戦も、一番心がけるべきことは、彼らにボールを渡さないことです。だからこそ、ペナルティはもちろん、ミスを減らさなければならない。とにかく正確にプレーをし続けること。それが、重要なキーポイントになります。
今日は、山極大貴がケガから復帰してデビューしました。
プレシーズンから、彼らのような若手には、大きな期待を持っています。
彼らは恐れることなくプレーして、激しくポジションを争っている。そして、何よりもラグビーを愛しています。コーチとしては、彼らの、怖いものが何もないような姿勢を高く評価しています。もちろん、まだまだ学ぶべきことはたくさんありますが、これから何人かの若手が出場する機会もあるでしょう。それが、将来のグリーンロケッツを支えてくれると思います。
コーチとして今すごく残念に思うのは、勝てないことではありません。
もっと多くの場面でいいプレーができるはずなのに、それができていないこと――それが、コーチとして悔しく、また残念に思うところです。
でも、選手たちは、お互いを信じて、もっと良くなろうとしています。
それをスコアボードに反映させるには、もう少し時間がかかるかもしれませんが、いい兆しは見えています。だから、クルーのみなさんにも、地域のみなさんにも、その間、もう少し温かい目で見ていただければ、と思います。
瀧澤直キャプテン
ここ3試合、結果を出せなかったし、3試合とも(7点差負けのチームに与えられる)ボーナスポイントも得られない、点差が開いたゲームになってしまいました。だから、クルーのみなさんには、ガッカリしている気持ちがあると思います。
ただ、プレーしている僕らの感覚は少し違っていて、点差よりも試合内容からいい部分を引き出して、勝ちにつなげるようにしようと考えています。この負けをいつか勝ちにつなげるというプロセスが、この3試合で少しずつできているように感じています。
だから、試合中に一度ミスをしたからといって落ち込むのではなく、いい時間帯を持てたことに自信を持って、次につなげるようにしないといけない。いいところをしっかりと見て、悪いところはしっかりと反省する――それを繰り返すしかないと思います。
サントリー戦も、いい準備をして、次につなげる試合にしたい。もちろん、勝ちたいし、結果にこだわりたいですが、それ以上に、自分たちがどこまで準備してきたことを出せるか。いい時間帯をどこまで長く続けられるか。そういった部分にもこだわりたいですね。
(取材・文:永田洋光)
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