「勝負がかかった大切な瞬間」を味方につけられず、グリーンロケッツ、ブレイブルーパスに敗れる!
「今日はまったくハッピーになる要素がない試合だった……」
これまでどんなに悔しいゲームの後でも、そのなかからポジティブな要素を見つけ出し、次の試合につながるプラスの側面を引き出してきたバート・テイラーHC(ヘッドコーチ)が、珍しくそう嘆いて天を仰いだ。
言葉の端々に悔しさがにじむ。
無理もない。
一時は逆転も視野に入る展開に持ち込みながら、わずか5分あまりで流れが反転。
東芝ブレイブルーパス東京に10分間で3連続トライを奪われて、最終的には18対37と痛い星を落とした。
いったい何があったのか――。
テイラーHCは、後半に入ると積極的に選手の入れ替えに動いた。
まず立ち上がりにFB吉廣広征に代えて金井大雪を投入。金井がSOのポジションに入って、それまで司令塔を務めていたレメキ・ロマノ・ラヴァを、持ち味のランを生かせるFBに置く。
52分にはスクラム最前線のPR石田楽人を瀧澤直に、土井貴弘を當眞琢に、さらにはこの試合で久しぶりの登場となったSH木村友憲を山田啓介に代えた。
3分後の55分には、FL大和田立に代えてフェトゥカモカモ・ダグラスを、CTBマリティノ・ネマニに代えてティム・ベネットを、それぞれ投入した。
後半立ち上がりの15分で一挙に6名を入れ替えた采配は、6対15と9点差を追う劣勢を一気に打開するためのカンフル剤だった。
これが見事に的中した。
55分だ。
自陣から金井が右タッチライン際に高いキックを蹴り上げ、追走したWTB後藤輝也が好捕。そのすぐ右横の狭いスペースに走り込んできたレメキにボールを渡すと、レメキがグイッと加速。東芝ブレイブルーパス東京のディフェンダーを一気に置き去りにする。
ゴールラインに迫ったレメキは、無理することなく冷静に、内側をサポートしたベネットにラストパス。ピッチに入ったばかりのベネットがトライに仕上げた。
グリーンロケッツがこの試合で初めて挙げたトライは、それまでのフラストレーションが溜まるような展開にヤキモキしていたクルーの溜飲を下げた、鮮やかなトライだった。
直後のコンバージョンも、金井がきっちりと決めて、スコアは13対15。
采配的中で、さあ逆転へ――と、クルーが盛り上がった瞬間だった。
ところが、続くリスタートから暗転が始まる。
ブレイブルーパスが蹴り込んだキックオフを、金井が地域を獲るために蹴り返す。
タッチに逃れて相手ボールのラインアウトにするのではなく、キック後の防御で圧力をかけて相手陣でボールを奪い返し、そのままトライへと結びつけるプランだ。
確かに最初の3フェイズはプランが機能した。
しっかり面を保った防御で圧力をかけ、右サイドでNO8ジョージ・リサレとベネットがブレイブルーパスCTBセタ・タマニバルを囲んでグイッと押し込む。さらにパスの乱れに乗じて前に出て、ハーフウェイライン付近から始まったアタックを5メートル以上押し込み、ラックからの球出しを遅らせた。
しかし、4フェイズ目に外側で小さな綻びができてWTBジョネ・ナイカブラに突破を許すと、そのまま自陣に押し込まれ、最後はトライを奪われた。
これも、ブレイブルーパスFLマット・トッドがパスを捕り損ね、苦し紛れにかかとを出したところにボールが当たって、サッカーのヒールキックみたいな形のキックパスとなった、珍しい形のもの。いわばブレイブルーパスのラッキートライだが、テイラーHCは、そこに至る防御に問題があったと指摘する。
「2点差に追い上げた後で、ハーフウェイライン付近の攻防でラインブレイクを許してから、ディフェンスの勢いを失った。相手に対してまっすぐディフェンスすべき場面で決断を下せず、いつものディフェンスを実行できなかったのが原因だ。結果的に、このラインブレイクが相手のラッキーなトライに結びつき、ゲームのターニングポイントとなってしまった。試合全体を振り返っても、攻守にわたって正確にプレーを遂行することができていない。それが、ハッピーな気持ちになれない最大の理由です」
反撃のきっかけとなるトライをお膳立てした金井も、2点差に追い上げてからの時間帯を、上手くコントロールできなかったことを悔やむ。「僕たち後半から入ったメンバーで逆転しなければならない時間帯に、点差を広げられた。これは、ゲームをコントロールする立場として、もっと改善しなければいけない部分だと思っています」
金井は前節、ベンチ入りしながら起用されず、終盤の2度に及んだTMOを含む死闘をじっと見つめただけだった。試合後も、3点差の惜敗にさまざまな感情が渦巻くロッカールームから早めに出て、廊下で1人悔しさを噛みしめていた。
そして、「もし自分があの終盤に出ていたら何ができたかを考え続けた」1週間を経てピッチに立った。それほど気持ちが入った”リーグワンデビュー”だったが、意図したようにはゲームが運べなかった。だから、余計に悔しさが募るのだ。
「前半は(ベンチから見ていて)自陣でプレーする時間が長かったので、僕が入ったらキックを使って相手陣でゲームをしようと考えていました。ブレイブルーパスは、自陣からでもFWを中心にアタックを仕掛けてくるから、なるべく相手陣でディフェンスをして、ボールを奪ってそれをトライに結びつけたかった。キックを使って、相手にプレッシャーをかけようと考えていたのです」
しかし、テイラーHCが指摘したように、プレッシャーをかけながらも一瞬の隙ができて、そこからトライに至る猛攻を浴びてしまった。その辺りを「課題」だと、金井は考えている。
こう言うのだ。
「今季は、トライを獲ったあとのキックオフレシーブが上手くいかず、自陣に釘付けになることが多い。それが、グリーンロケッツがトライをたたみかけるような展開に持ち込めない原因だと思います。その結果、トライを獲って獲られて……という展開になって、相手に押し切られてしまう。今日も、その部分を修正できなかった。それが、今の課題だと思います」
この「トライをたたみかける展開」に持って行ってこそ、グリーンロケッツが今季積み重ねてきた良さが最大限に発揮され、結果として勝利がついてくる。
だからこそ、「勝負がかかった大切な瞬間を1つひとつ全力で勝ち取りに行かなければならない」と、テイラーHCは強調する。
「チームがなかなか勝ち星を挙げられないのも、そうした大切な瞬間の1つひとつの戦いで勝ちを逃しているからです。選手たちにとっては苦く厳しい教訓ですが、今日学んだ教訓をしっかり生かして、これからの勝利に結びつけなければならない。次節のNTTドコモレッドハリケーンズ大阪戦(19日 ヤンマースタジアム長居 14時30分キックオフ)は、シーズンのなかでも非常に大切なゲームなのですから」
そう。
次節は、今季初めて関東地方を出ての遠征試合。しかも、準備期間は中5日と短い。
いわば、逆境のなかでの「マストウィン」ゲームなのである。
ゲームキャプテンを務めたレメキは、次節のレッドハリケーンズ戦に向けて一言、シンプルにこう言った。「来週は、グリーンロケッツにとっては決勝戦。絶対に勝つよ!」
ブレイブルーパス戦に敗れて10位に転落したグリーンロケッツにとっては、この「決勝戦」に勝って、クルーが待ち受けるホストゲーム(27日 対トヨタヴェルブリッツ 柏の葉公園総合競技場 14時30分)に凱旋することが、今季最大のミッションとなる。
スターティングメンバーなどはこちらよりご覧ください。
リーダーズコメント
ロバート・テイラーHC
今日はハッピーになる要素がまったくない試合でした。
前半は特にゲームが細切れで勢いを出せませんでした。前半だけで、アタックにいい位置でのマイボールラインアウトを4回、ミスで失っています。
それも、ボールをほとんど継続できなかった原因でした。
ラインアウトは、アタックの起点となる大切なセットプレーです。でも、きちんと遂行しないと起点にはなりません。だから、そうした遂行力が勝つためのキーポイントになります。
後半は、ようやくいくつか良い形が出てきて、スコアも2点差まで追い上げましたが、直後にハーフウェイライン付近の攻防でラインブレイクを許してから、ディフェンスの勢いを失いました。
相手に対してまっすぐディフェンスすべき場面で決断を下せず、いつものディフェンスを実行できなかった。結果的に、このラインブレイクが相手のラッキーなトライに結びつき、ゲームのターニングポイントとなってしまったのです。
試合全体を振り返っても、攻守にわたって正確にプレーを遂行することができていない。それが、ハッピーな気持ちになれない最大の理由です。
選手たちにとっては、非常に厳しい教訓ですが、試合に勝つためには、そうした大切な瞬間の戦いを、1つひとつ全力で勝ち取りに行かなければなりません。チームがなかなか勝ち星を挙げられないのも、そうした大切な瞬間の勝負に負けることがあるからで、今日学んだ苦い教訓をしっかり生かして、これからの勝利に結びつけていきたいと思います。
次節のNTTドコモレッドハリケーンズ大阪戦までは中5日しかなく、準備する期間は短いですが、気持ちを早く切り替えて準備に集中したいと思っています。
この試合はシーズンのなかでも非常に大切なゲームです。
これまでのゲームプランを変える必要はないし、メンタルを切り替えて、基本的なことを正確に実行すること。ディフェンスでの判断を中心に、セットプレーも含めて、もう一度チームのベーシックな部分を確認して、それらを確実に実行すること――それが来週のキーポイントになります。
つまり、プレーを正確に遂行する「実行力」が次節のキーワードになるのです。
レメキ・ロマノ・ラヴァ ゲームキャプテン
今日は13対15まで追い上げて、そこまでは上手くゲームをコントロールできたと思います。
ただ、TMOで試合が中断したり、ミスやペナルティでプレーが止まることが多かった。
おまけに、ディフェンスの時間がメチャクチャ長かった。
そういうふうにストップとゴーを繰り返すような展開だと、なかなかアタックのリズムを作れないし、スクラムは良かったのですが、セットプレーからのアタックチャンスも、ほとんどありませんでした。これでは、自分たちのラグビーを上手く展開できなくなる。
僕自身は、後半に2回走るチャンスがありましたが、それだけでは全然物足りないですね。
結果は2回ともトライには結びつきましたが、もっと自分の強みを生かさないと、チャンスは生まれてこないかな、と思います。
次節は、もう勝つしかない。グリーンロケッツにとっては決勝戦みたいな試合だから、完全に勝たないといけない。
そのためにも、自分たちのやりたいラグビーにもっとフォーカスすることが必要でしょう。
自分たちがやるべきことにフォーカスして、しっかり正確にプレーすれば、反則も減らせるし、ポゼッション(ボール保持時間)も長くなる。
来週は、みんなが自分の役割を果たして、絶対に勝つよ!
プレイヤーズコメント
リーグワン初先発となった HO川村慎
チームとしてステップアップしている手応えがあるので、今日は、僕もその一員として責任あるプレーを心がけようと思っていました。アッシュ(・ディクソン)から学んだ部分もしっかり出して、チームに貢献することを意識してプレーしました。
スクラムは、今日はペナルティをとったりとられたりでしたが、試合を通じてずっと押せている感覚があって、手応えは良かった。僕らの自信にもつながりました。それは次節につなげたいですね。
ラインアウトは……ちょっとプレッシャーがかかっていました、かね。
チームは、勝利になかなか手が届かないのですが、でも、確実に良くなっていると思います。
勝つためには、1つひとつの瞬間、瞬間の小さな勝ちをつなげていくことが大事です。
今は、ここで勝って、ここで勝てなくて……と繰り返す状態なので、試合をご覧になっている方も、「あと一歩なのにな」と思う部分があると思います。
でも、そうした“勝ち”を重ねていけばトライにつながる。
もちろん、相手のいいプレーもあるから、それほど簡単なことではありませんが、攻守の大切な場面で正確にプレーして、もう1つ勝ちを積み重ねること。相手も同じように「ここは大事な局面だ」と思っているところで、勝てるようにプレーを積み重ねること。
それを徹底しようと、試合後にみんなで話し合いました。
次節まで準備できることは限られますが、今日のスクラムの良かった部分や、アタックしたときにはトライが獲れたことを踏まえて、そういう良い時間が長く続くようにしたい。
ボールを保持していればトライは絶対に獲れると思うので、あとはペナルティを少なくする。ここ数週間、課題としてずっと話し合っていますが、そうしたことを正確に実行していきたい。
そのためにも、FWとしてできることは、正確なセットプレーでボールを確実に獲る。あとは、余計なペナルティを減らす――その2つだと思います。
前半18分のPGにつながるビッグタックルを決めた NO,8ジョージ・リサレ
僕の仕事は、ボールキャリーであれ、タックルであれ、ブレイクダウンであれ、最前線で身体を張ること。だから、それを全うすることを考えてプレーしているのですが、タックルでは相手の死角から入ってターンオーバーに結びつくような、ビッグタックルを狙うこともあります。
でも、チームに貢献することが第一なので、まず自分の役割を果たすことを優先していますよ。
今季は、序盤から試合に出て、チームに関われていることを誇りに思っています。
それはコーチ陣から信頼されている証でもあるから、信頼に応えるべく、グラウンドに立てば自分の仕事を全うしようと考えています。今後も、それを続けていきたいですね。
今日は、セットプレーで思うようにボールを獲得できなかったので、チームとしてのアタックの形を上手く作れず、自分の持ち味のボールキャリーを見せる機会があまりなかったのですが、次節は、自分の強みを見せつけたい。アグレッシブに前に出てFWを引っ張り、しっかり勝利をつかみたいと思っています。
今季は、スーパーラグビーやインターナショナルのトップレベルでの経験を持つ選手たちが入ってきたので、経験豊富な彼らといっしょにプレーできることを誇りに思っています。みんなそれぞれタイプが違うし、持ち味も違うのですが、そんな彼らと、アタックでチームを前に進めるという自分の強みを出しながら、いっしょにプレーできていることは光栄ですね。
2020年1月18日(対日野レッドドルフィンズ)以来の出場となった SH木村友憲
今日は、今まで練習してきたことを試合でも出そうと思ってピッチに入りました。
久しぶりの試合だったので、すごく緊張しましたが、先発ということは、スタッフに認めてもらったということなので、自分のやるべきことをやろうと考えていました。
自分自身のパフォーマンスとしては、ディフェンスのコネクション(連携)の部分でミスをしたりで、ビミョーなところでした。ディフェンスの部分は、ちょっと良くなかったと反省しています。
これからは、もっと試合に出て貢献したいのですが、自分の強みはディフェンスなので、その部分では誰にも負けないくらい、意識して貢献したいと思っています。
次節に向けては、今までやってきたことを変えずに準備するだけです。僕たちがやってきたことを試合に出せば、絶対に勝てると思うので。
後半立ち上がりから司令塔を務めた SO金井大雪
先週の試合でベンチに入っていたにもかかわらず、ピッチに立てなかったのは悔しかったですし、今週は、もし自分が出ていたら何ができたかを考え続けた1週間でした。
今日は、けっこう長くプレー時間があったので、やってやろうという気持ちはありました。
前半は(ベンチから見ていて)自陣でプレーする時間が長かったので、僕が入ったらキックを使って相手陣でゲームをしようと考えていました。ブレイブルーパスは、自陣からでもFWを中心にアタックを仕掛けてくるので、なるべく相手陣でディフェンスをして、ボールを奪ってそれをトライに結びつけたかった。だからキックを使って、相手にプレッシャーをかけようと考えていたのです。
今シーズンは、マノさん(レメキの愛称)が10番で出ることが多いのですが、マノさんは、本来ボールを持って走るのが強みのプレーヤー。だから10番の本職としては、キックやゲームのコントロールをしっかりやって、マノさんが本来の仕事をできるように、そういうコントロールを、試合を通して継続したいですね。ただ、僕たち後半から入ったメンバーで逆転しなければならない時間帯に、点差を広げられたのは事実なので、ゲームをコントロールする立場として、もっと改善しなければいけないと思っています。
今は、自分にできることで通用する部分が絶対にあると思うので、そういう強みをしっかり出して、結果を残して(首脳陣に)アピールしたいと思います。
自分が中心となって、チームをどんどん動かせるようなプレーをしていきたいですね。
今季初先発で、リーグワンデビューを果たした CTBマリティノ・ネマニ
ずいぶん長い間試合に出ていなかったから、試合前はかなり興奮していました。グリーンロケッツのために最善を尽くそう――それが今日のモチベーションでした。
前半は、なかなかボールが来なくて、フラストレーションが溜まりました。僕の持ち味は力強いランなのに、前半はディフェンスばかり。ゲームに入るのが、簡単ではなかった、というのが正直なところです。
ただ、かつての僕は、試合のなかで、ボールを前に運び、タックルして……といった具合にすべてを自分でやろうとしていました。でも、それは“オールド・ティノ”(ティノはネマニの愛称)。今は、チームメイトを信頼し、自分に与えられた仕事をきっちりやろうとしています。
これからシーズン後半に向けては、オールド・ティノのような激しいボールキャリーも求められるだろうと思っているので、そういう点でも貢献したいですね。そして、信頼するチームメイトの持ち味を引き出したい。
クルーのみなさんの前で激しいボールキャリーを見せて、グリーンロケッツを前に前にと、推し進めたいと思っています!
(取材・文:永田洋光)